「美容師」が登場する作品(1)映画「髪結いの亭主」~ フェチと純愛と官能

映画を見る 隋感随筆
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わたし(「ヘナ愛」管理人)が見て、読んで、感じた「美容師&理容師が登場する作品(映画、本、コミックなど)を紹介。印象に残ったものの中から、ちょっと考えさせられる、考えなくてはいけないような作品を選んでいます。

映画「髪結いの亭主」LE MARI DE LA COIFFEUSE

編集家@山中登志子
編集家@山中登志子

30年近く前に見た映画。美容師(理容師)が主人公といってまず浮かんだのが、この「髪結いの亭主」。この映画ではフェチ、男女の性的な衝動の違いを考えさせられた。

1990年作品。バルブの終わり頃、レンタルビデオ店で借りた。ビデオテープの時代。

懐かしのビデオテープ

あらすじ&解説(Yahoo!映画 より)

ある日、美しき髪結いマチルド(アンナ・ガリエナ)のいる理髪店にふと立ち寄ったアントワーヌ(ジャン・ロシュフォール)は、マチルドに唐突にプロポーズする。そして、マチルドとアントワーヌは結婚する。少年時代からの夢をかなえたアントワーヌは、マチルドのそばで濃密な日々を送るようになる。

『仕立て屋の恋』『ハーフ・ア・チャンス』などの名匠パトリス・ルコント監督の1990年の名作をデジタルリマスター化。理髪師の女性と結婚するという、幼いころからの夢をかなえた中年男が送る結婚生活を官能的に描く。主演は『妻の恋人、夫の愛人』のアンナ・ガリエナと、『パリ空港の人々』『ロスト・イン・ラ・マンチャ』のジャン・ロシュフォール。愛について深く考えさせられ、観終わったあとに独特の余韻を堪能できる。

「髪結い亭主のときめく恋物語」か「美容師ヒモ夫のフェチ物語」か

散髪好きだった主人公アントワーヌは12歳の時、理髪店の女主人の豊満な胸、体臭から性に目覚める。「髪結いの亭主になる!」と親に宣言した通り、中年になったアントワーヌはマチルドという髪結い(美容師)に一目ぼれし、結婚へ。愛とセックスに満たされたふたりだけの日々が10年続くのだが・・・というストーリー。

フランス語「Le Mari de la coiffeuse」は「美容師の夫」だが、邦題は「髪結いの亭主」。日本語はほんとに豊富だなと思う。イメージがしやすい。もっとストレートにいうと「美容師のヒモ夫」。これだとエロチックなフランス映画とは程遠くなりそうだ。

「髪結い」はいまでは美容師、理容師のことだが、江戸時代は数少ない女性の専門職の1つだった。妻の稼ぎで働かずに暮らしている夫のイメージはそのほか、甲斐性なし、ごくつぶしなど。もっと踏み込むと、男妾、情夫、つばめもあるが、なかでも「髪結いの亭主」はどちらかというと「あいつ、うまいことやりやがって~~」といった嫉妬がこもっている感じがする。

どんな映画かといえば、「髪結いの亭主を夢見た男と美しい女性の結婚物語」。「フェチ男の妄想を叶えた恋物語」とも言えるし、「永遠の愛を考える物語」でもある。

「床屋」って言ったらダメなの? メディアの自主規制

床店、髪結い床、そして床屋と名称が変化してきた中、床屋は「床」という言葉が性的な意味合いも持つためか、メディアでは「理髪店」「理髪業」「理容院」と呼んで自主規制している。

有川浩の小説「図書館戦争」シリーズ「図書館危機」(2007年)で「放送禁止用語」で「床屋」が出ている。人気俳優が、インタビュー記事で「床屋のおじいちゃん」の祖父のことを「理容師のおじいちゃん」に変えられ激怒。「理容師」ではない! おじいちゃんは「床屋」なんだよ! なぜだ! でも「床屋」のままだと検閲の対象になる。表現の自由を巡る攻防が繰り広げられるという小説。

ぜんぜん違ったイメージに感じる人は多いだろう。

Bitly

また「〇〇屋」は日銭が入る職業に多く、侮蔑的な感じにも聞こえるので、メディアでは魚屋、八百屋、肉屋、花屋なども、鮮魚店、青果店、精肉店、生花店といったように言い換えをしている。親しみやすさと感じるか、差別を感じるのか、このあたりもメディアリテラシー(メディアを読み解く力)にもなりそうだ。言い換えだけすればOK、おしまいではなく、まず、自分がどう思うかを考えることが大事なんだと思う。

いまだと「髪結いの亭主」というタイトルがすんなりつけられるのか、否か。タイトルにも自主規制が及びやすくなっているのだろうか?  

わたしも日常で「美容院に行ったの?」と言うけど「理髪院(理容院)に行ったの?」と言わないな。「散髪屋に行ったの?」「床屋さんに行ったの?」と日常的に使っている。

フェチってかなり奥深い

アントワーヌは「髪結い亭主」の夢を実現させるが、その原点は主人公の性的な衝動からきている。少年期の女性への憧れが映像で表現されている。見えそうで見えない胸、太もものチラリズム、ペラペラのうす~い生地の服などなど。男女で感じ方、妄想も違っている。おっぱいフェチ、においフェチ男の物語としてとらえると、おっぱいの描写もろもろエロチックに見せている。フランス映画だ。

わたしはこの映画でフェチ、男女の性的な衝動の違いを考えてしまった。

30年前にこの映画を見たが、自著「天然ブスと人工美人どちらを選びますか?」(光文社)の執筆時、男女に「あなたのフェチは?」と聞きまくったことがあった。そのときフェチが気になって、この映画をまた見ている(もっとすごいフェチ作品をあれこれ見たけど・・・)。

独特な体臭も、ある人にとっては興奮するフェロモンにもなっている。「わきががたまらない」と言っていた知人男性も変態扱いされるから言わないと教えてくれた。20代でつきあっていた彼も「ミルクのようなにおいの女の子」にときめくとニヤけていた。男性のにおいフェチはかなりいるはず。

わたしも20代、30代は生理前、甘ったるいおいで生理になることがわかった。生殖にも関係あるフェロモンからきているかと思うと、この独特のにおいには困ったなと思っていた。若かりし頃のことでもうすっかり忘れていたが、体臭に恋するというのはもっと動物的なことに思える。

女性に比較的多いのが、声フェチ。まわりに聞いてみると案外多い。

そのとき、自分のフェチは手フェチ、黒服フェチと認めた。手フェチは、自分がぽちゃぽちゃしているからすらっとした、苦労をしていないような手が好きで、ないものねだり的なところからきている。黒服フェチといってもホスト黒服ではなく、男性が喪服の女性にくらくらくるといった、非日常的な高揚的なもの。声フェチ女性にしても、男性のような性衝動とは違っている。憧れ的というか・・。

映画を見て、髪を洗ってあげているシーンを見て、ああ好きな人の髪を洗ってあげたいなと思った。それ以上の衝動はない。

フェチは永遠に続く秘め事的な楽しみであって、手に入れて満足、もっともっと!というよりもこっそりとたしなむのが醍醐味なのではないか。もちろん法を犯さず、迷惑をかけず!

いろんな人が集う空間「理美容室」

ちょうどこの映画を見た1992年前後は、顔が変わる病気(アクロメガリー)がわかって手術をして3、4年の頃。鏡を前にして自分の変わった顔を見たくなかったから、美容院は足を踏み入れたくなかった場所だった。

短くカットすることをお願いしたところ、年配の男性美容師に「あなたな顔が大きいから、短くしないほうがいいよ」と言われた。顔をできるだけ隠したほうがいいとアドバイスをされて、断られた。こういう心をえぐる言葉はずっとずーっと覚えている。この美容室を出てすぐに別の美容室でカットしてもらった。もちろん二度とそこには行かなかった。

遡れば、伯母が理容師で、小学校の頃はカットしてもらっていた。「こまっしゃくれている」と言われて、わたしに意地悪だった。生意気はその通りでもあるが、わたしもその伯母が嫌いだった。「短くしないで!」とお願いしたのに、男の子と間違えられるくらいバッサリと切られたことがあった。

12歳のときの「髪結いの亭主」の抑揚体験とは真逆、鬱憤体験だ。

20代、30代は美容室はいちげんさん状態でメンバーカードもつくらず。当時はホルモンの影響で細毛だったのもあって、毎回トリートメントをすすめられていた。

あまりいい思い出がなく、足をあまり踏み入れたくない場の1つが「美容室」だった。そんなわたしが美容師になったのだが、いまだにふつふつと思い出すから心をえぐる思い出は罪深い。

「髪結いの亭主」を見ると、美容室・理容室は、いろんな人が集ってくる日常の場(髭を剃りに来た陰気な客、派手な喧嘩をはじめる夫婦、散髪が嫌いな男の子・・・などなど)にもなっていて、人生を垣間見れる。日常の延長できれいに変化させてもらい、本来は親近感をもつことができる空間だ。

「愛に溺れる、前よりも深く」のメッセージ

妻、この髪結いのマチルドはすごく美人なのに、なぜかカラっとした明るさを感じなかった。そもそも自分のフェチを叶えたかった男と結婚するくらいの女性だから、何かあるに違いない、きっと・・・。

床屋という小さな空間の中はエロチックな2人だけの世界だった。ラストになぜ、妻はそんな行動に出たのか?? 「愛に溺れる、前よりも深く」がメッセージなのか?

いろいろなとらえ方があるようだが、「永久の恋」とは何か? 加齢とは何か? なのかなと感じている。もう一度じっくり見るとラストへの伏線を感じるかもしれない。

1人ぽつりと椅子に座る髪結いの亭主アントワーヌ。夢を叶えた男の客へのセリフはせつなかった。

「MOVIE WALKER」サイトより

髪結いの亭主:映画作品情報・あらすじ・評価|MOVIE WALKER PRESS 映画
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「髪結いの亭主」が見れる動画配信を調べたら・・・(2022年11月21日現在)

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