「理容師」が登場する作品(2)短編小説「海の見える理髪店」~ ”大人の男の匂い”を感じる理容室からのメッセージ

本を読む 隋感随筆
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わたし(「ヘナ愛」管理人)が見て、読んで、感じた「美容師&理容師が登場する作品(映画、ドラマ、本、コミックなど)を紹介。印象に残ったものの中から、ちょっと考えさせられる、考えなくてはいけないような作品を選んでいます。

短編小説&NHKドラマ「海の見える理髪店」

編集家@山中登志子
編集家@山中登志子

スペシャルドラマ「海の見える理髪店」が2022年12月にNHKで放映された(再放送)。理髪店というのが気になって見た後、荻原浩著、第155回直木賞受賞作のドラマ化だと知って読了。ドラマの柄本明さんも役柄ぴったり。短編のなかに理美容のメッセージがいっぱいつまっている。

あらすじ&解説

スペシャルドラマ「海の見える理髪店」より 初回放送日: 2022年5月9日

海辺の小さな理髪店を若者(藤原季節)が訪れた。老店主(柄本明)は嬉しそうに調髪に取り掛かり、問わず語りに自らの人生を話し始める。家業の床屋を10才から手伝い、初めての仕事は兵隊に行く常連客の丸刈り、順調だった店が傾き酒におぼれ、妻に暴力をふるって離婚されたこと……。そして店主は突然、「人を殺めたことがある」と告白をする。なぜ、若者はこの理髪店を訪れたのか? なぜ、老店主は自らの人生を語るのか?

スペシャルドラマ「海の見える理髪店」
海辺の理髪店に若い男が訪れた。「髪型はお任せします」というオーダーに老店主は嬉しそうに調髪に取り掛かり、問わず語りに自分の人生を語り出す。家業の床屋を10才から手伝い、初めて任された仕事は出兵する常連客をバリカンで丸刈りしたことだった。昭和Read More...

出版社(集英社)サイトでの紹介

直木賞受賞作 待望の文庫化!
人生に訪れる喪失と、ささやかな希望の光── 心に染みる儚く愛おしい家族の小説集。

店主の腕に惚れて、有名俳優や政財界の大物が通いつめたという伝説の理髪店。僕はある想いを胸に、予約をいれて海辺の店を訪れるが……「海の見える理髪店」。独自の美意識を押し付ける画家の母から逃れて十六年。弟に促され実家に戻った私が見た母は……「いつか来た道」。人生に訪れる喪失と向き合い、希望を見出す人々を描く全6編。父と息子、母と娘など、儚く愛おしい家族小説集。直木賞受賞作。

鏡に「水色の空と深い藍色の海」が映る理容室の”大人の男の匂い”

若い男性が今日は美容室ではなく、理容室を予約した。その「海の見える理髪店」には満11、12歳から親の理髪店の手伝いをはじめた、70代の理容師が待っていた。

店内の鏡に映る水色の空、深い藍色の海。その2つの青が鏡を半分にわけている理容室で、1時間少しの理髪時間の中で、繰り広げられる若い男性と初老理容師の物語だ。

白い上掛けを着せられ、温水スプレー、蒸しタオル、髪型の注文、くしを入れられカット、はさみを変えてカット、洗髪、ひげそり、マッサージ・・・の理髪工程がていねいに描かれているので、理美容師もお客側も参考になるはず。男性客が感じた「大人の男の匂い」の描写が続く。

理容師も「なんでも鏡越しに見ていたんだと思う。真正面から向き合うとつらいから」と言うが、若い男性客の前では饒舌に、自分の人生や鏡越しに見てきた人たちのことを語っていく・・・・。

理容師と美容師の違い、仕事は「人の気持ちを考えること」

老齢理容師が語る理容師人生の中に、理容師としてあり方、美容師との違い、またサロン経営について考えさせられるポイントが散りばめられていた。

たとえば、カット、髪型選びではこんな表現。
◎美容師さんと我々では切り方が違う。
◎頭をガラス製の置物のように扱われる美容室とは音まで違う。
◎人の視線というのは分け目のほうに向く。
◎男の髪というものは、仕事の柄によって変えるべき。
◎たいていの方は、なぜか、わざわざご自分に似合わない髪型を希望する。

「こうありたい自分と、現実の自分というのは、往々にして別のものなのでしょうねぇ。」という。生き方についても言えることだが、髪型もしかり! 写真を選ぶときでも、自分はいいと思わない画像のほうを「こっちがいい」と言われることがある。

「仕事っているのは、つまるところ、人の気持ちを考えることではないか。」というのも、耳が痛いなあと思って読んだ。

<理容師の歴史>ビートルズ来日で理容室が左前になってしまった・・・

理容師の歴史も知ることができるので、ネタとしても年齢関係なく盛りあがれる。

たとえば、戦時下、床屋は「平和産業」と言われて目をつけられ、職人は兵隊にとられ、金属の理容椅子は軍事供出のお達しがきた話。戦時下の丸刈り時代を経て、戦後になると切った髪の毛を佃煮やに売って、アミノ酸の髪の毛を化学醤油の材料にしていたといった話などなど・・・。

いまでも甲子園の高校生の丸刈りを見ると、戦時中と刑務所を思い出すとこの理容師は語っていたが、わたしたちも髪のスタイルでいろいろ印象づけられてしまっているようだ。

時代、流行を追っているのが、ヘアサロンでもあるが、独特のはやりだった「慎太郎刈り」(1950年代中頃に流行した男性ヘアスタイルで、 前髪を長くしたスポーツ刈り)のことも紹介されていた。その頃、昭和30年代は床屋にとっていい時代で、散髪は男の楽しみだったという。

それが、ビートルズが来日(1966年、昭和41年)から左前になったと言う。髪が伸びたら床屋に行くというのを「あの(髪の長い)連中がぶち壊した」と・・・。古い理容師たちは思っているとあった。

ビートルズ「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」が理容室で流れている。

ジョン・レノンは「息子のジュリアンが幼稚園で描いた絵」から着想を得たと言っているので、ここにもこの作者が、父と息子、絵ということを想像させているんだなと思った。

わたしは伏線を想像するのが大好き!!

会社を大きくしても「社訓」じゃなく「初心」を飾れ!

美容師との違いを理容師目線で見ているので、逆の目線(美容師が見た理容師との違い)を読んでみたいとも思った。

そして今回、なるほどな!と感じ入ったのが、次のセリフだった。

「事業欲というと聞こえはいいですが、たぶん欲しかったのは 「箔」でした。 薄っぺらな金箔です。 ・・・(略)こうありたい自分と、現実の自分が、見えていなかったのだと思います。 お客様も、先々、事業を広げられるなら、どんなに会社を大きくされても、社訓じゃなく初心を飾ってください。」

「社訓」じゃなく「初心」が大事だと言っている。

みなさんの「初心」はなんでしょうか?

わたしは、小学6年のときからずっと言っているのが「為せば成る 為さねば成らぬ 何事も 成らぬは人の 為さぬなりけり」です。

悩ましい親子関係にある人たちへ

伏線がいくつもあって、楽しませてもらった短編だった。

別れ際「あの、お顔を見せていただけませんか、もう一度だけ。いえ、前髪の整え具合が気になりますので。」と語った理容師。最後に、プロ理容師に徹しながら、感情を思わず見せてしまうシーンは切なくもあり、ぐっときてしまった。

短編なので、時間的にも読みやすい。

人それぞれいろんなことを抱えて生きているが、さまざまな家族や家族関係があって、それぞれがままならぬことを抱えながら生きている。やっと向き合えたり、まだ背中をむけたままだったりもする。悩ましい親子関係にいる人たちも考えさせられる1冊になるのでは・・・。

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